一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「すみません、チョコ系はお嫌いでした? フレンチトーストとか揚げパンもありますけど」
ハートのパンを真剣に見つめる俺を不審に思ったのだろう。杏先生が不安げに尋ねて来る。
その手がゴソゴソエコバッグを漁って他のパンを物色しているに気づき、俺は慌ててかぶりを振った。せっかく手に入れた杏先生のハートを手放してなるものか。
「いや、まったく嫌いではない。むしろ好きだ。大好きだ」
杏先生を安心させたくて、その目をまっすぐ見つめて告げた。
「そ、それなら……よかったです」
杏先生は頬をほんのり赤く染めてそう言うと、気まずそうに俺から目を逸らす。
なにを照れているのだろうと不思議に思いつつ、俺は彼女に聞きたいことがあったのを思い出した。
「そういえば杏先生、来月の十日の休みって、予定は?」
「えっ? 八月の十日ですか? ……ええと」
記憶を辿っているのか、軽く俯いて目を瞬かせる杏先生。やがて顔を上げて俺を見たその目は、なぜか怪訝そうに細められていた。
……まさか、警戒されている?