一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

「ゆ、友人と会う予定がありますけど」

 どことなく嫌そうな雰囲気を感じ取り、軽くショックを受ける。

 予定を聞かれたということは、どこかに誘われる。そう察したはいいが、俺と出かけるのは嫌だ――ということだろうか。

 考えすぎか?

「予定があるなら仕方ない。また声をかける」
「えっ? ……はい、わかりました」

 予定が合わなかっただけでなく、俺から誘われることがまったくうれしそうではない杏先生の反応に、軽く傷つく。

 しかし、これまで指導医の立場を貫いてきた俺が、急に態度を変えたから驚いているだけかもしれない。またタイミングを見て、距離を詰める方法を考えなくては。

 杏先生はぺこりと会釈して俺から離れていき、他の同僚たちにもパンを配り始める。

 その中に例のハートのパンがないかどうかさりげなく観察し、どうやらなさそうだと安心してから俺は自分のパンにありついた。

 いきなりハートに齧りつくのはなんとなく気が咎め、焼きそばパンから口に入れる。

 安定の美味しさにふっと表情を緩めていたら、誰かがデスクに近づいてきた。

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