一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
その時の俺はまだ子どもだったが、緊急オペで兄を救ってくれた脳外科医の先生――当時まだ現役だった小田切院長に深い感謝と尊敬の念を抱き、俺も将来は彼のようになりたいと志すようになったのだ。
兄は術後も手足のしびれや記憶の混乱など少しの後遺症はあったものの、リハビリを続けて回復し、今ではほとんどなんの症状もなく、家業を継いでいる。
避けられない先天性の病でも、きちんと手術をすれば根治する。今はまだそう言い切れない難病であるAVM患者を、ひとりでも多く救いたい。
それが、脳外科医になって成し遂げたいことのひとつだった。愛花先生にもその話をしたことがあったため、学会の代役を俺に勧めてくれたのだろう。
杏先生とのデートが実現しなかったのは残念だが、それはそれ、これはこれ。
有意義な学会に参加できるのは幸運だと気持ちを切り替えた俺は、午後もまた忙しい業務を遂行するため、杏先生にもらったふたつのパンをありがたく噛みしめるのだった。