一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 ただ、真夏の炎天下の中でわざわざコスプレして参拝しようというほどのオタクはそれほど多くないらしく、私たち以外は一般客がちらほらいるだけだった。

 かなり目立ってしまうが仕方ない。私とスモモ氏はプレハブ小屋でそれぞれオトメとコマチに変身し、手水舎で清めの儀式をしてから参道を進む。

 社殿の目の前まで来た瞬間、アニメのワンシーンがぶわっと頭の中に広がって、私は思わず興奮してしまった。

「はわわ、スモモ氏、ここ、勇気くんが身を挺してオトメを庇ったお賽銭箱の前だよぉ!」
「アンズ氏、テンション上がりすぎ! ほら、せっかく来たんだから今後の新シリーズ放送を祈っとこうよ!」
「そっか、そうだよね。新シリーズ、絶対来てほしいよね!」

 お賽銭を入れて鈴をガラガラと鳴らし、魂を込めて二回拍手し、目を閉じる。

 私が子どもの頃四年間放送してくれていた魔法少女オトメは、当時少女だった世代に今でも愛されているとはいえ、やはり過去の作品。

 どんな形でもいいから新シリーズが製作されますように。できれば、声優さんたちのキャストは変更なしでお願いします。

 ついでに家内安全、学業成就。それから、千石先生が一刻も早くあの夜の記憶を忘れ去ってくれますように……!

 百数十円のお賽銭しか入れなかったわりに欲深い祈りを捧げ、最後に深々とお辞儀をして参拝を終える。

< 50 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop