一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
隣を見るとスモモ氏はすでにいなくなっており、魔法少女オトメとコラボしたお守りを販売している授与所の前で私を待っていた。
彼女のいる方へ向かうため、参道から逸れて砂利の地面を踏みしめる。
その直後、ぬっと近づいてきた男性に呼び止められた。
「あの……! ちょっとすみません」
聞き覚えのある声。しかも絶対に聞きたくない声だったので、背筋が凍り付く。
他の誰かを呼んだのではないかとキョロキョロしてみけれど、半径十メートル以内には、私と彼以外に誰もいなかった。
……ちょっと待って神様。私のお願い、聞いてましたよね?
どうしてよりによって、私がこの格好をしている時に彼が現れるの……?
無視してしまえばよかったかもしれないが、職場でお世話になっている指導医の前でそんな態度を取ることもできない。
あの夜と違って、彼は寝ぼけているわけじゃないのだ。
おそるおそる後ろを振り向くと、ワイシャツにネクタイ、手にはビジネスバッグと脱いだ上着を持った千石先生がぽかんとした顔で立っていた。
どうしよう……。ごまかす? それとも普通に挨拶する?
辺りで大合唱している蝉の声が、気まずい沈黙をいっそう際立たせる。
オトメの衣装の中は、暑さのせいだけではない汗でびっしょりだった。