院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 そうはいっても、千石先生にとっては、直属の上司である母と病院のトップである父に対して秘密を持つことになってしまう。

 そんな面倒はお断りだとあしらわれても当然だ。

 口にしてみて初めて、自分がいかに身勝手なお願いをしているのかがわかって胸が苦しくなった。

「男性に縁がないというのは本当か?」

 しかし、千石先生が気になったのは両親のことではないらしい。

 静かに投げかけられた質問に戸惑いつつも、私は頷いた。

「はい。これまで男性とお付き合いしたことは一度もありません。実は私、双子の姉がいるのですが、姉の方はむしろ経験豊富で恋人が絶えないので、姉妹で比較されるとつらい部分もあって……だから、これ以上両親に不安の種を与えたくないというか」
「……なるほどな」

 千石先生はそれだけ言ったきり黙ってしまう。

 どんなに説明を重ねてもしょせん私の個人的な都合に過ぎないので、呆れているのかもしれない。

 今後私の指導医でいることすら嫌だと言われたらどうしよう……。

 押し寄せてくる不安と、境内に降り注ぐ夏の太陽の暑さとで、頭がくらくらしてくる。

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