院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「だから、お願いです。両親には言わないでください……」
必死で訴えると、千石先生は軽く眉を下げ、困った顔になる。
それから前髪にくしゃっと手を入れて後ろに撫でつけると、小さくため息をついた。
「……わかったよ。ご両親には秘密にする」
「ありがとうございますっ!」
「ただし、交換条件だ」
ホッとしたのも束の間、千石先生が低い声でそう言ったので、緩んだ気持ちを引き締める。
なんでもすると言ったのは自分なので、どんな頼みも引き受けるつもりだ。
どんな無理難題が課されるのだろうと、ごくっと喉が鳴る。
次の瞬間、千石先生がまっすぐな瞳で私を射貫いた。
「俺と結婚してほしい」
彼がそう言った直後、そばで砂利を踏み鳴らす音がして、スモモ氏がそばに戻ってきた。彼女は今の発言を聞いていたようで、口元に手を当てて驚愕の表情をしている。
しかし、私はきっとその何倍も驚いている。だって、結婚って……あの結婚?
「アンズ氏……私、お邪魔みたいだから失礼するね?」
「えっ、やだ、スモモ氏、行かないで」
心細くなって彼女の方に手を伸ばすものの、スモモ氏は両手を振りながら後ずさりした。
「ま、またDMするから、どうぞお幸せに……!」