院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 とはいえ、娘の私でも母に睨まれたらちょっと怖いので、指導医が千石先生のようなおおらかな先生で安心している。

 天才と呼ばれる人にありがちなとっつきにくい印象もないし、なにか質問すると、身長一八五センチある大きな体を屈め、一五三センチしかない私の声に丁寧に耳を傾けてくれる。

 彫りが深く整った顔はシャープな印象だけれど、七三分けの前髪から覗く目はいつも穏やかなので怖い印象もない。

 こう言ったら失礼かもしれないけれど、優しい大型犬という感じだ。

「着替えたら家族への説明に同行してもらう。一分で足りるか?」
「はい、すぐに」
「よし。じゃあ一分後にまた」

 更衣室で手術衣から白衣に着替え、鏡を見ながら後頭部でまとめていた髪を軽く結び直す。

 童顔と輪郭の丸さがコンプレックスなので鎖骨まであるストレートヘアはできれば下ろしていたいのだけれど、仕事中はそうも言っていられない。

 すぐに着替えを済ませて千石先生と合流し、患者家族の待つ部屋まで歩きながら、手術についてのおさらいをする。こうした隙間時間でも熱心に指導してくれる彼は本当に親切な指導医だと思う。

 春から千石先生にくっついて勉強すること約三カ月。自分が成長している実感は残念ながらまだ少ないが、毎日が新鮮で充実している。

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