一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「……仕事と見た目のことはとりあえず納得しました。ですが、一番大事な夫婦らしい雰囲気はどう頑張っても演出できません。なにせ、経験値ゼロなんですから」
いくら交換条件とはいえ、結婚という人生の一大事にこんなひよっこを巻き込んだら、後悔するのは千石先生の方だろう。
私にはもう少しレベルの低い依頼を振ってもらって、結婚相手はきっちりその役目を果たせる相手に頼んだ方が絶対にいいと思う。
「そんなもの、練習あるのみだ」
「えっ、練習……?」
勉強やスポーツならわかるけど、夫婦らしく振舞う練習っていったい……?
「そうだ。今のままでは確かにただの同僚に見えてしまうだろうが、一緒に暮らせばそれなりに親密な雰囲気になっていくだろう」
「千石先生と一緒に暮らす……?」
うちの家族は父しか男性がいないし、その父も忙しいのであまり男性と暮らしているという実感はない。
千石先生だって多忙なのは同じだけれど、夫婦らしく振舞う練習をするとなると話は別だ。いったいどこまで本物の夫婦に近づける気なんだろう。
「あくまでお芝居ですよね? たとえば千石先生のご両親に会うとか、夫婦としての演技が求められるイベントの前に、台本を用意して読み合わせるとか」
「そんな付け焼刃ではボロが出るに決まってる。俺が言っているのは、そんな台本がなくても夫婦に見えるようになる練習だ」