一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「なんでもしますと言ったのは私なので、お断りする権利がないのは重々承知しています。……でも、少し考える時間をいただけませんか? 今日、ここで千石先生に会ったことも含め、色々と頭が混乱していて」
秘密がバレた衝撃の中で結婚を提案されて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。コスプレをした今の姿で返事をしたとしても、なんだか信ぴょう性に欠けるような気がするし。
「わかった。東京に帰ってから、改めて話をしよう」
「ありがとうございます……!」
少しだけでも猶予がもらえて安堵する。深く頭を下げると、千石先生がフッと苦笑した。
「しかし、先に俺を混乱させたのはきみの方なんだからな」
「えっ?」
「あの夜、その格好で俺にしたことを忘れたとは言わせないぞ」
彼に軽く睨まれた瞬間、私にも同じ記憶が蘇ってかぁっと頬が熱くなった。
そりゃ、あんなことされたら混乱するよね……。
極限状態のパニックだったとはいえ、なんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。
「そ、その節は大変ご迷惑をおかけしました……」
「迷惑……というわけじゃないが、困ってはいる。きみにかけられた魔法の解き方がわからなくてな」
魔法なんて現実にあるはずがないのに、千石先生がそう言って自嘲気味に笑う。