一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
ひと息に話し、ようやく息継ぎをしたその時。目の前の千石先生が完全に呆気に取られていたので、ハッと我に返った。
やってしまった。ちょっと片足突っ込んだだけの新規さんを沼に引きずり込もうと古参がやりがちな〝一を聞かれて百を喋る〟ミス……。
「す、すみません。ひとりでべらべらと……」
「いや、新鮮だよ。病院で話す時の杏と違うからおもしろい」
「……引かないんですか?」
「なんでそう思う。好きなものを好きと言ってる時のきみはとてもかわいいし綺麗だ」
き、綺麗……? こんな大人げないコスプレをして、オタク全開の発言を繰り返す私が?
千石先生の美的センスって、ちょっとシュールだったりするのだろうか。
褒め言葉として素直には受け取れないが、なんとなく頬が熱くなって俯く。
「……ああ、もうこんな時間か。新幹線に乗らなきゃいけないから、先に失礼する」
「そういえば、今日はどうして名古屋に?」
「愛花先生の代役で学会に出席してたんだ。帰り道はこの神社を通れば駅までの近道のようだったから寄ってみたら、きみがいたというわけだ」