一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
ただ、うちの場合は父が母にべた惚れだったようだからうまくいったかもしれないけど、私と千石先生の間に甘い感情なんて生まれるはずがないしな……。
「そう考えると杏たちにもロマンチックな展開が待ってるかもしれないよね~。これは勇気を出して飛び込んでみるべきじゃない?」
「そうかなぁ。迷惑をかける未来しか想像できないんだけど」
「その先生って年上でしょ? デートもキスも夜の生活も絶対にうまくリードしてくれるって!」
凪がさらりとそんなことを言うので、顔が沸騰したみたいに熱くなった。
「へ、変なこと想像しないでよ……っ!」
デートはともかく、それ以外は契約夫婦の範囲から逸脱している。
それに、いつでも冷静沈着にオペをこなし、私への指導も優しくおおらかな彼と、そういう本能的な行動がリンクしない。
草食系とでもいうのか、千石先生ががつがつしているところはあまり想像できないのだ。
……私が経験不足なだけかもしれないけど。
「杏、変なことじゃないよ。大事なことだよ。とくに夫婦になるならなおさら」
珍しく凪が真面目な顔をして私を諭す。
「……そう、なの?」
半信半疑だが、こういう話題は凪の方が詳しい。
やっぱり私の恋愛観って、年相応のそれとはかけ離れているのだろうか。