院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「うん。だから、遠慮なく教えてもらえばいいじゃん。少なくとも仕事上は信頼できる人なんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「よし! じゃあ私が一歩踏み出すきっかけを作ってあげる! スマホ貸して!」

 ニコニコ笑う凪がずいっと手を差し出してきた。正直、嫌な予感しかしない。

「貸して……どうするの?」
「だから、杏が一歩踏み出すお手伝いだってば。指導医の先生なんて名前だっけ? 連絡先は知ってるんでしょ?」

 ぜ、絶対勝手に連絡する気だ……。

 今年の春に私の歓迎会をしてもらった時、医局の先生方とはひと通りメッセージアプリのIDを交換したので、千石先生とも一応連絡は取れる。

 しかし実際にメッセージのやり取りをしたことはないので、いきなり送るのは気が進まない。

 スマホを守るように胸に抱いてふるふる首を振るが、凪はムッと頬を膨らませる。

「なによー、せっかくアドバイスしてあげてるのに」
「それとこれとは話が別だよ」
「だって、結婚しないとコスプレのことバラされちゃうわけだからどうせ逃げられないんでしょ? いい加減腹くくりなよ」
「うっ……」

 それを言われてしまうと痛い。

 言葉に詰まった私を見て、凪がふふんと鼻を鳴らす。

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