院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「ほーら、貸して。なんて名前で入ってるの?」
「……普通にフルネームで千石柊二。くれぐれも余計なことは言わないでよ?」
「大丈夫大丈夫。あ、これだね」

 どんなメッセージを送るつもりか気になって凪の背後に回ろうとしたら、画面を隠すようにパッと胸にあてた凪に睨まれる。

「もう、姉を信じてよ」
「いや、信じるとか信じないとかじゃなくて……」
「杏って〝こんばんは〟とかスタンプで入れる人?」
「いや……ううん。普通に挨拶と本文一緒にしちゃう」
「おけ。じゃ、こんな感じかなぁ」

 極力私に画面を見せないようスマホを顔に近づけ、凪の指がトトトッと器用な速さでメッセージを打ちこんでいく。

「見せなくてもいいから、なんて送るのかだけでも教えてよ」
「はい、送信……っと。ほら、こんな感じで送っといたよ」

 はやっ。声に出さずに呟いて、差し出されたスマホ画面を覗く。

 真っ白だったトーク画面の一番上に、凪が打ったメッセージがあった。

【こんばんは! あれから色々考えて、結婚のこと前向きに検討し始めています。双子の姉に相談したら、一度デートしてみることを勧められました。もしよろしければ、お休みの日に会っていただけませんか?】

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