院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
確認する勇気を持てない私にしびれを切らし、凪が手の中からスマホを奪う。
もう、どうにでもなれだ……。
「……凪、千石先生、なんて?」
「じ、自分で見て。なんかこっちが照れちゃうよ」
照れちゃう……?
むくっと顔を起こし、テーブルに置かれたスマホを見る。
【ドキドキするのはお互い様だ。俺も楽しみにしている】
それが、千石先生からの返信だった。
絵文字こそないものの、その意味深な文面を目にした瞬間、胸がキュッと締めつけられて頬が熱くなる。
これ、本当に千石先生が?
「ねえ杏。交換条件だなんだって言うのは建前で、実は彼、杏のこと本気なんじゃない?」
「まさか……そんなわけ、ないよ」
普段同僚として接している相手とプライベートで会うのは、たとえ恋愛感情がなくたってある程度ドキドキするだろう。
千石先生が言っているのはきっと、その程度のことだ。
凪は「ふうん」と呟いた後、チラッと私の顔を覗く。
「鈍感な杏をこんな風に慌てさせるなんて、その千石先生って人、なかなかやるね」
「べ、別に慌ててなんか」
「ま、これからもなにかあったら相談には乗るけどさ。杏の代役をやるのはもう止めておく。千石先生に悪いし、杏はもっと素直になるべきだと思うもん」
そう言い残し、凪は私の部屋を出て行ってしまう。ひとりになった私の視線は、自然と先ほどの彼のメッセージへと向けられる。
彼もドキドキしてるって……本当なのかな。
彼はいったいどんな顔をしてこの文面を打ったのだろうと思うと、それこそ全身が脈打つようにドキドキして、顔が熱くなって、初めて経験する胸の苦しさに襲われた。