一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
指導医千石柊二の求愛
【遅れてすみません! もうすぐ着きます】
【急がなくていい。ちゃんと待ってるから】
杏にそうメッセージを打ち、スマホをポケットにしまう。
改札の出口に目を凝らしているだけで胸は高鳴り、俺は幾度となく繰り返している深呼吸でもう一度自分を落ち着かせた。
名古屋の神社で杏に結婚話を持ちかけた直後、あんなやり方は強引すぎたのでは? 一種のパワハラに当たるのでは? と帰りの新幹線でひとり悩んだ。品川で下りるはずが東京まで乗りすごすくらいに。
だから、彼女の方からデートを提案してくれた時には驚いた。驚いたが、もちろんそれ以上にうれしかった。
病院の外で俺と会うことに対して『ドキドキします』というメッセージを受け取った時には、杏のあまりのかわいさに動揺し、スマホを自宅の床に落とすという失態を犯した。
画面が割れていないことにホッとした後【ドキドキするのはお互い様だ】と平静を装って返事をしたが、本当は『俺は会う前からドキドキしている』と打とうとして却下した。
七つも年上の、これまで冷静な指導医だと思っていた男が年甲斐もなく浮かれているなんて、杏には気取られたくなかった。