院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 しかし、兄の病気をきっかけに医者を志すようになったため、家業にはノータッチだ。

 周囲からは特別な家に生まれた御曹司だと思われているが、俺自身はただやりたいことをやっているだけ。

 本当は俺にも千石グループに入ってほしかったであろう親には大きな感謝と少しの負い目があるため、これまで私利私欲のために実家の名前を利用したことは一度もない。

 しかし……杏と一緒に花火を見るためなら、千石家の一員であることを活用するのもやぶさかではない。

 極めて利己的な発想だとは理解しつつ、どうにか席を確保できないだろうかと主催者に連絡を取ったのが一週間前のこと。

 すでにチケットが完売している有料観覧席に関して無理やり融通することはできないが、花火が見やすい場所にちょうどふたり分、増席してくれるという。

 俺は丁重にお礼を言って、来年は父か兄に頼んで、五百発くらい花火を打ち上げてもらうことにしますと勝手に約束を取り付けた。

 花火五百発くらい、千石グループならたやすい仕事である。

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