一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「す、すみません」
「気にするな。それと、もう少し緊張を解けないか? 病院ではもっとちゃんと俺の目を見て話してくれるだろ」
「そ、そう……ですよね。やってみます」
きゅっと唇を引き締めた彼女が、俺の目をジッと見つめる。
恥ずかしいのをこらえているのだろう。その瞳はうるうると涙ぐんだように揺れていて、いじらしいことこの上ない。
こちらも必死で抑えているものがあるのだが、いちいち杏の仕草に心を乱されているせいで、我慢の限界がくるのも早そうだ。
いつ理性を手放すか自分でも見当がつかず、思わずため息をついて彼女の耳元に唇を寄せた。
「今夜のきみは、特別かわいくて困ってしまうな」
「せ、せんせ……急になに言って……っ」
案の定、杏は先ほどよりも頬を濃く赤らめて盛大に照れた。彼女を困らせるつもりはないのだが、正直な気持ちを告げているだけなので許してほしい。
「急じゃない。さっき会ってからずっと思っていた。浴衣姿もいつもと違う髪も、うっとりしてしまうくらい綺麗――」
「あの……も、もう結構です! お世辞だとわかっていてもやっぱり照れますし、それ以上褒められても脳が処理しきれないというか、ホントに慣れてないので、私、勘違いして、舞い上がって、おかしなことになりそうで……っ」