一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「でも、さすがに姉たちもここには入れないので、どうしようってパニックになりかけて……メッセージで相談したんです。そうしたらこんな返事が来て」
杏がおずおずとスマホを俺の方に差し出す。
丸いアイコンの下に【凪】と書かれていて、姉妹でかわいい名前だなと、関係のない感想を抱く。それから肝心のメッセージに目を通した。
【杏、さっきからずっと恋する乙女の顔をしてるからきっと大丈夫! 心の赴くまま行動して、甘い空気になったら千石先生に身を委ねちゃえ♡】
どうやら、お姉さんは杏とは少々違ったタイプのようだ。
一度デートをしてみたらとアドバイスしたのもそういえば彼女だったし、積極的な性格なのだろう。
それにしても、【身を委ねちゃえ♡】ときたか……。
杏がさっき顔を赤くしたのはおそらくこれが原因だ。俺はふっと苦笑すると、気遣うように彼女の顔を覗いた。
「心配しなくても、杏が嫌がるようなことはしない。今日はまだ初めてのデートだし、一緒に花火を見られれば俺はそれだけでうれしいから」
「千石先生……」
彼女がぽつりとそう呟いた直後、ひゅるる……と高い音が響いて、夜空に大輪の花が咲く。
不安そうに揺れていた杏の瞳が、花火の色を映してきらきらと輝いた。
「綺麗だな」
「はい……」