一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 一発目が上がった後も、次々と打ち上がる花火で空が明るくなる。俺たちは酒にも料理にも手をつけず、しばらくその光景に夢中になった。

 何発か派手な花火が連続した後、つぎの準備がすぐには間に合わないようで、一瞬静寂が訪れる。

 その時、ソファに置いていた俺の手の甲に、やわらかな彼女の手がそっと重なった。

「……杏?」

 高鳴る心臓の音を聞きながら、それでも平静を装う。

 彼女の小さな手は俺より熱く、緊張したように震えていた。

「こ、心の赴くまま行動しろって……姉に、言われたので」

 真っ赤になってそんなことを言う杏に、これまで必死で保ってきた理性がぐらぐらと揺れる。

 かわいい。キスしたい。抱きたい。……今すぐ、めちゃくちゃに。

 頭の中でもうひとりの俺が悪魔のように囁いて、遠慮がちに重ねられた杏の手にスルッと指を絡める。

 杏はわかりやすく肩を跳ねさせ、戸惑ったように俺を見つめた。

 ……ダメだ。焦るな。杏は俺を信じている。

 花火を見られるだけでうれしいなんて建前だと、本当はきみの浴衣を剥いですべてを奪いたいのだと、そんな醜い本音を悟られてはいけない。

 胸が焼け焦げそうなほどの葛藤を抱え、絡み合う指にきゅっと力をこめる。

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