一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
軽く首を傾げた杏はどこまでも純粋な目で俺を見ていて、俺はさんざん悩んだ末、彼女にゆっくりと顔を近づけて、前髪の上からそっと額にキスをした。
大きく高鳴った鼓動と、花火が再び打ちあがる力強い重低音が重なる。
目を閉じていても、まぶたの向こうに感じる花火の明るさが眩しい。
「……ごめん」
嫌がることはしないと約束したはずが、結局手を出してしまった自分に呆れる。
ため息をついた俺の前で、杏が小さくかぶりを振った。
「謝らないでください! ……嫌じゃ、なかったので」
蚊の鳴くような声だったが、聞き逃さなかった。
杏が懸命に素直になろうとしてくれている。その気持ちが痛いくらいに伝わって、胸が詰まるような感覚を覚える。
俺のこの想いは決して一方通行じゃない。彼女は彼女なりに、俺と夫婦になるため歩み寄ろうとしてくれているのだ。
「ありがとう。ゆっくりでいい。これからもっと、きみを知りたい」
「私もです……。よろしくお願いします」
固く手を握り合って、穏やかな微笑みを交わす。
その時杏の瞳に映っていた世界で一番美しい花火の色を、俺は一生忘れないと思った。