院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
彼のことは前よりずっと男の人として意識しているし、隣にいるとドキドキもする。だけど、うまくそれを表現できない私のせいで、微妙な距離のままなのだ。
「院長、お話って……?」
「まぁ座って。今、お父さんは喜びと悲しみの狭間でナイーブに揺れてるんだ」
父はまるで涙を隠すように目元を手のひらで隠し、天井を仰いだ。
その口調からプライベートな話だとなんとなく察するが、なにをわけのわからないことを……?
戸惑いつつも、空いていた席は千石先生の隣だけなので、そこに腰を下ろして両親と向き合う。母が私と千石先生を交互に見て微笑んだ。
「千石先生に聞いたわよ、杏。あなたたち、結婚の約束をしているって」
「えっ……!?」
どうして私に相談もなく両親にその話を……?
思わず右隣の千石先生を見る。しかし千石先生は私の方を見ず、両親に向かって柔和な笑みを向けるだけだ。
「父親としてはこの上なく寂しいけど、千石先生ならかわいい娘を安心して預けられる。彼にもそう伝えたところだ。幸せになるんだよ、杏」
感極まったように瞳を潤ませる父。その隣で、優しく頷く母。
呆気に取られて固まっていると、千石先生が居ずまいを正して両親に頭を下げた。