一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「睡眠不足が心疾患や脳血管疾患の引き金になるのは、きみだってよく知っているだろう。愛花先生にはSAH(くも膜下出血)の病歴もあるから、彼女や院長が心配するのも無理はない」
それを言われてしまうと返す言葉がなかった。
彼の言った通り、母は二十代後半でくも膜下出血を発症している。緊急手術を執刀したのは父で、当時からすでに母と愛し合っていたにもかかわらず、微塵も動揺を見せずに手術を成功させたのだそうだ。
小田切総合病院ではそれが伝説のように語られていて、娘として誇らしい反面少し気恥ずかしい。
母はその後も定期的に診察を受けているが、五十代を超えた今でも後遺症などは現れずに済んでいる。
母の脳内で破裂した動脈瘤は遺伝性のものなので、私や双子の姉も念のために検査を受けているが、今のところ私たち姉妹の脳に異常はなかった。
それでも、親としてはどうしても心配になるのだろう。