院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「先生、どうして両親に結婚の話を……?」
立ち止まった彼は、私と正面から向き合うように体の向きを変えた。
「今のままでは杏先生との関係を進めようにも、仕事に追われるばかりでゆっくりどころか立ち往生したような状況だろ? だから、早めに結婚の許しを得ておきたかった。ちなみに結婚前からきみと同居することにも許可をもらった」
「ど、同居……っ!?」
しれっと放たれた発言だったが、私にとっては寝耳に水の話。
私がいない場所でそこまで話が進めるなんて、あまりに横暴ではないか。
「そんなこと、急に言われても心の準備ができません……っ」
「急に結婚するよりはマシだろう。それに、夫婦らしく振舞う練習をすると約束したはずだ」
「それは……っ。そうですけど……」
確かに、夫婦らしい空気感を手っ取り早く会得するには同居した方が効率的なのかもしれない。
だけど、妻になるのは私なのだ。両親に話す前にひと言ぐらい相談してほしかったと思うのはワガママだろうか。
悶々として俯くと、千石先生が軽く周囲を窺い一歩私に近づく。それから大きな体を屈め、私の顔を覗き込んだ。