一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「杏は、俺と一緒にいたくないか?」
「……そ、それがわからないから困っているんです。病院の外で先生といると緊張するし、うまく話せないし、すぐに胸が苦しくなっちゃうから……」
だから、同居なんてしたら自分がどうなってしまうのか心配なのだ。
私にとってのお手本、オトメと勇気くんの恋は今のところ高校生編までしか描かれていないから、男の人と一緒に暮らすなんて未知の世界だし。
「……だったらなおさら、杏は俺と接することに慣れておいた方がいいと思わないか?」
「えっ?」
「今はまだお互いをよく知らないから緊張がなかなか解けないんだ。俺という人間をもっと知れば、杏だって段々と寛いだ気持ちになれる」
「そういうものですか……?」
半信半疑だが、彼の言う通りかもしれないとも思う。
今はふたりで過ごす時間が少なく、病院での千石先生のイメージが強いから、プライベートの素顔を見るだけでドキドキしてしまうけど……一緒に暮らせば、そんな自分を鍛える訓練にもなるのかな。
「ああ。嘘だと思うならやってみればいい。俺はいつでも構わないから、杏の都合のいい時に荷物を持ってうちにこい」
「……わかりました」
体よく丸め込まれた気がしないでもなかったけれど、私は頷いた。
私たちの結婚はすでに両親まで巻き込んで走り出しているのだ。習うより慣れろって言うし、千石先生を信じて、早く彼との生活に馴染めるように努力しよう。