一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
それから二週間後の日曜日。
道場破りのように『たのもう!』と心の中で宣言しながら、千石先生の自宅マンションを訪れた。
傍らには大きなトランクがひとつ。彼のマンションは私の実家からひと駅の場所にありとても近いので、とりあえず最低限の生活必需品だけ持っていくことにしたのだ。
オトメの衣装はとりあえず置いてきたが、私と凪だけが知っている秘密の鍵付きボックスにしまってあるので両親が見つけることはない。
というわけで引っ越しとしてはとても身軽で楽だが、初めて実家を出て他人と、しかも男性と暮らすというミッションはやはりハードルが高い。
ある程度覚悟を決めて家を出てきたとはいえ、ドアの前で彼が出てくるのを待つ間中、心臓が激しく暴れた。
やがてドアが開き、休日っぽくスウェットにTシャツ、カーディガンといういでたちの彼が私を出迎えた。
「いらっしゃい。上がって」
「お邪魔します」
ガチガチになりながら挨拶をして、室内に足を踏み入れる。
ホテルのように生活感のない、ぴかぴかの玄関や廊下にさっそく気後れした私は、出されたスリッパを履くだけで転びそうになる。
よろけた私にすかさず気づいた千石先生が、腕を掴んで支えてくれた。自分のミスとはいえ、急な接近に頬がかぁっと熱くなる。
「す、すみません」