一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「想像以上に緊張してるみたいだな。家の中で転ぶなんて」
「……自分でもそう思います」
情けないやら恥ずかしいやらで、来て早々に泣きそうだ。
千石先生は俯く私の手を引いて、部屋に案内してくれる。六畳ほどの広さにベッドと小さなデスク、本棚が置かれている。
壁には備え付けのクローゼットがあるので、服はそこに収納すればいいそうだ。
基本的に職場と家の往復しかしない私にとって、シンプルなこの部屋はとても暮らしやすそうに見える。落ち込んでいた気持ちがちょっと浮上して、千石先生の横顔を見上げた。
「素敵な部屋ですね。ありがとうございます」
「いや、感謝されるほどのことはしてない。元々誰も来ないゲストルームだったのを、軽く掃除しただけだ」
彼はそう言うと、玄関にいったん置かせてもらっていたトランクを運んできてくれる。
「今日からここで寝起きするなんて、変な感じです。私、一度も実家を出たことがなかったので」
「いや、きみが眠るのはここじゃない」
「えっ?」
首を傾げると、千石先生が再び私の手を握って廊下に連れ出し、今いた部屋のちょうど隣に位置する部屋の扉を開けた。
隣の部屋より少し広くて、中央には巨大なベッド。濃いグレーで揃えられた寝具に男っぽさを感じて、途端に心臓が早鐘を打った。