一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
さっきの部屋と違ってこちらは人の住んでいる気配がある。壁一面の本棚には医療関係の書籍が揃っているし、きっと千石先生の寝室なのだ。
なぜ私をこの部屋に……?
「俺たちは職場で行動を共にすることは多いが、家で一緒にいられる時間はそう長くないと思う。だから、たまに夫婦でいられる時くらい同じベッドで寝る」
同じ、ベッドで、寝る……?
子どもでも理解できるような単純な単語の羅列だが、私には宇宙語みたいに聞こえて固まってしまう。
誰かに解説を頼みたいと思った瞬間、頭の中にいつかの凪の言葉が響いた。
『その先生って年上でしょ? デートもキスも夜の生活も絶対にうまくリードしてくれるって!』
い、いやいやいや! ベッドで寝るって、別にそういう意味と決まったわけじゃ……!
「そういうわけだから」
自分の思考に盛大に照れていたせいで、千石先生の接近に気づけなかった。
目の前に影がかかったと思った瞬間、大きな彼の体にすっぽり包み込まれ、その胸に閉じ込められる。ドキッと心臓が脈打った。
「せ、千石先生……っ!?」
目を白黒させて身じろぎするも、千石先生はびくともしない。
「杏といられる貴重な時間は、夫婦らしくさせてもらう」