一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
夫婦らしく……。そうだった。この同居は、単なる共同生活というわけではない。
男の人の生態も、恋愛のいろはもなにも知らない私が、千石先生と本物の夫婦になっていくための訓練を積む期間。
両親に秘密を隠し通すための交換条件にしては、なんだか規模が大きくなってしまった気もするけれど……ただ流されているのではなく、私の中にも千石先生をもっと知りたいという感情が生まれ始めている。
尊敬すべき指導医、というだけではない。千石先生を見ると心のやわらかな部分がきゅっとつねられたように痛む。
そんな経験は生まれて初めてで、もしかしたら彼との結婚は私にとって大きな意味を持つかもしれないと、そんな気がしているのだ。
「……しゅうじ、さん」
温かな腕の中で、気がついたら、私は意味もなく彼の名を呼んでいた。
即座に反応した彼が、そっと体を離して私の顔を覗き込む。無意識だったので、みるみるうちに顔中に熱が広がった。
「杏、今……」
「いえ、あの、特に深い意味はないんですけど……っ。プライベートの時間に先生って呼ぶのも、なんだか、あれかなって……」
しどろもどろに説明しつつ、あれってなによ、と自分で自分に突っ込む。