一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「ダ、ダメ……」
柊二さんはハッとしたように目を見開き、すぐにぴたりと動きを止める。
それから指先で私の前髪を優しく梳いて、額同士をコツンと合わせた。
「……ごめん。焦りすぎたな」
目を閉じ、後悔を滲ませる彼に、胸の奥が疼く。
……違う。悪いのは、柊二さんに釣り合わない経験しか持ち合わせていない私の方だ。
「私の方こそ、ごめんなさい……。お応えしたい気持ちはあるのですが……」
「いや、無理はしなくていい。今、俺を止めてくれて助かった。危うく杏を傷つけてしまうところだった」
「柊二さん……」
臆病な私の気持ちを受け止め、尊重してくれる。そんな彼の優しい態度に、先ほどまでの緊張が緩んでいく。
柊二さんは隣にごろんと横になると、こちらに手を伸ばして私の体をそっと抱き寄せる。
「怖くなかったか?」
「ほ、ほんの少し……」
でもそれは柊二さんのことじゃなくて、あなたに嫌われたら――そう思うと、怖かった。
心の中だけで呟き、自分の気持ちが急速に成長しているのを自覚する。
彼が求めているのは形式上の妻であって、甘い言葉もキスも、周囲を欺くための演技を私に教え込むための訓練でしかないのに。