旦那様に腐女子小説家だとバレてはいけない!

7話 大きな動き

 その後、アメリアは部屋に戻ってぼんやりと考えた。今までウィリアムがアメリアを気にかけたことは前世も含めて一度もない。それなのに、今世では変わって初めて気にかけてもらった。
 
(私が行動したから、彼も変わってきたということ……?)

 例えそうだとしても、アメリアはあまり実感が湧いていなかった。前世での彼を思い出せば、今日の彼はまるで別人のようだった。違和感を感じつつも、アメリアは深く考えれば考えるほど頭が混乱していた。彼の言動が初めてのことで戸惑いが隠せないのであった。
 そっとリリーの方を見れば少しソワソワとした様子だった。どうかしたのかとアメリアが聞けば、リリーは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「だって旦那様が声をかけたんですよ、しかも奥様に! 初めてのことではありませんか!」

 リリーは興奮気味に話しているが、その様子を見たアメリアはどこか冷めたような、冷静な状態だった。確かにウィリアムはアメリアに話かけたが、そこまで興奮するようなことではない。彼が珍しいことをした、ということに間違いはないが、たまたまだと言われればたまたまの出来事だろう。
 引き続き、リリーは興奮気味に「もしかしたら奥様のことが気になり始めているのかもしれません」と言った。

「まさか。そんなことありえないわよ」
「ですがあの旦那様が、ですよ? もしかしたら今後は何か変わっていくかもしれないじゃないですか」

 アメリアはあまり否定をするのも良くないと考え苦笑いをしたが、心の中では絶対にありえない、と断言した。
 倒れた時も、病気と診断された時も、死に際になっても訪れなかった彼が自分に興味を抱くわけがない。仮にも自分の妻が死んでしまうというのに何もしてくれなかった夫に何も期待などできない。

(期待をするだけ、無駄よ)

 前世では、最後まで期待をしてしまった。最初の頃は愛がなくても家族としての愛を育むことができるかもしれないと期待をしたが、そんな期待はあっという間に消えた。子どもが生まれれば変わるかもしれないと期待をしたが、子どもを授かることすらできなかった。体調を崩し、倒れても病気と診断された時も心配をしてくれる様子は一切なく、寝たきりになってもお見舞いに来てくれたことは一度もなかった。
 前世で情がなかった彼が、今世で急にその性格が変わるとも思えない。期待をしたところで無駄なだけだ。

(だから、今世は彼に何にも期待なんてしない。自分で、好きなことをして生きていくのよ)

 どこか寂しいと感じながらも、それを無視するかのようにアメリアはまだ読み途中だった新聞を取り出した。今朝は買い物に行ったりとしていたせいで、日課になりつつある新聞を読む時間がなかった。
 ソファに座り、新聞を開く。変わり映えしない経済の話にどの貴族が新しい商売を始めただの、どこの店が不景気なのか、そんな内容が書かれている。読み続けることで国内での景気の動きがなんとなくわかるようになってきたが、自分の旦那であるウィリアムの記事についてはいつもいいことしか書かれておらず、不景気の様子は全く見られなかった。
 他にも貴族内の噂もゴシップとして扱われることもある。特に色恋ものがよく取り上げられ、結婚したての頃はアメリアとウィリアムのことが書かれたこともあった。最近では全く書かれなくなったが、いつかパーティーに参加した時には書かれることになるだろう。
 せっかくウィリアウのことを考えないようにしていたアメリアだが、無意識になろうにも不思議と意識をしてしまうのだった。
 少しでも違う話題を読もうと、ページを変えれば新しい見出しが見えた。

(……連載?)

 そこには大きな見出しで【小説の連載決定 作家も募集中】と書かれていた。
 アメリアは吸い込まれるかのように目をそちらに向け、詳細を読んだ。内容を読めば新しい企画らしく、さまざまな小説が日替わりで連載されていくというものだった。すでに契約が決まっている小説家がいるのか、二、三人ほどが書いた物語が掲載されている。匿名性もあるのか、作者名を公開していない人もいた。

(もしかしてこれは、チャンスかもしれない……)

 アメリアの心臓が大きく鳴る。作家募集の詳細を読みたいのに心臓の音が邪魔をしてなかなか読めない。それでも繰り返し読めばいやでも理解ができる。
 作家の年齢や性別は問わず、内容さえ良ければ偽名での提出も許されるようだった。元から自分の名前で小説を書くべきかどうかを悩んでいたアメリアからしたらこれ以上に良い条件はあまり見つけることはできないだろう。
 物語の内容もさまざまなものを募集しており、アメリアが書いている友情ものも募集されていた。彼女が書いているものは友情と見せかけた恋愛ものとも言えるが、わかる人にはわかるような内容になっているため真のテーマに気づく人は多くはないはず。
 彼女もすぐに連載に繋がるとは考えていない。これに応募をすることで自分の実力がどのくらいなのかもわかり、どちらに転んでも自分の経験にはなるだろう。
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