旦那様に腐女子小説家だとバレてはいけない!
 

 そんなことを考えているうちに新聞社に到着しており、アメリアは御者の手を借りながら馬車を降りた。
 前回のように受付に名前を伝えれば応接間に通され、少し待っていればソフィアが両手いっぱいの荷物を持って現れた。

「すみません、お待たせしました!」
「とんでもありません。それよりも、そちらの荷物は……?」
「これはですね、資料や見本の紙などです!」

 ドサっと机の上に置かれたそれは、色とりどりの紙や布、他には画集や何冊かの本が置かれた。
 その量に驚いていると、ソフィアはニヤリと笑って「この作業は楽しいですよ!」なんて言った。

「まず、アミーさんの作品の修正はこちらの編集者が責任を持って行いました。矛盾や細かい設定、あとは展開の相談があるのでそれは後日、話し合いましょう。そのことについて詳しく修正した原稿に書いたので、次の打ち合わせまでに確認し、アミーさんの方でもこだわりの部分や説明ができるようにお願いします。そして今日は、表紙のデザインを決めるための打ち合わせです」

 テキパキと説明をし、急な情報量にアメリアは戸惑いながらも原稿を受け取った。中をチラリと見れば赤色のインクで修正点などが多く書かれていて、自分の未熟さを指摘されているようだったが、不思議と悪い気分にはならない。むしろ、自分にはまだまだ伸び代があると言われているような気持ちだ。
 ソフィアは表紙を決めるにおいて必要な資料を持ってきたらしく、ざっと目を通すだけでも相当な数がある。

「表紙は本の顔です。ここで良い印象を与えなければ、手に取ってくれるチャンスも減ります! 誰に表紙の絵を担当していただきたいとかはありますか?」
「表紙……誰に、とかの希望はありません。私も本は読みますが、表紙のデザインまではどうしても。強いて言えば、色をこだわりたいくらいでしょうか」
「承知しました! 色はどのような色がいいですか?」
「深めの緑と、青を。彼ら二人のイメージなんです」
「ああ! 確かに、二人はそんな感じがしますね」

 アメリアが書いたこの物語は、男性二人が様々な苦難を乗り越えながら結果を残し、無二の友情が描かれた物語である。彼らのイメージカラーを決めるとなれば、この二色であることを、アメリアはずっと前から考えていた。
 資料として持ってきてもらった作品や冊子を何冊か取り上げながら説明をすればソフィアはすぐに理解し、話を続けた。

「では、表紙のデザインや絵はこちらの方で担当を決めても大丈夫ですか?」
「はい。色味だけこだわって頂ければ……あとは、作品のイメージが崩れないようにお願いします」
「もちろんです! そのように手配をします」

 ソフィアはメモを取り、次から次へと話を進めていった。
 打ち合わせは数時間に及び、気づけば物語の核となっている“友情”の話になった。

「アミーさん、もし間違えていたら申し訳ないのですが……その、この作品って友情ではありますが、もしかして恋愛とかの要素って、ありますか……?」
「……ッ!」

 少し不安そうにしながら聞かれ、なんて答えれば良いのか悩んでしまった。
 アメリアはちょっとした恋愛要素を意識しながら、わかる人にはわかるように書いた。気づかれても良いことではあるが、それを編集者であるソフィアに知られてしまった場合、同性愛の作品は危険があると判断されて出版の話がなくなってしまったらどうしよう、と瞬時に考えたのだ。考えていなかったわけではないが、そういう作品に対して好意的になれるかどうかでこちらの対応も変わってくる。
 どう返せば良いのか迷っているうちに、ソフィアの方が口を開いた。

「……正直、読んでいる時から気になってはいました。これを理由に出版を止めることはしませんが、一部の人は気づくと思います。私は、この物語がとても好きです。ここの恋愛要素についても必要な要素だと思いますが、それこそ一部は嫌がる人もいるでしょう。それでもアミーさんは、大丈夫ですか?」
「……」

 即答はできなかった。
 実際、批判が届く可能性だって十分にあり得る。ソフィアさんやその他の人たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。けど、自分が書きたいと思った物語であることには違いない。そこを崩せば、自分が書きたかったものではなくなる。

「……大丈夫です。正直な話、不安はあります。ですが、私が書きたい物語はこのようなものです。そこを崩すことはできません」

 アメリアは、ソフィアの目を見ながらしっかりと答えた。迷っている場合ではない。
 せっかく過去に戻ったというのに、ここで批判を恐れて書き直すのは違う。

「わかりました! 私たちも、精一杯サポートします」
「ありがとうございます……!」

 それからも打ち合わせは続き、気づけば陽が沈む直前になっていた。
 夕食に遅れないよう、アメリアは急いで屋敷に戻ったのだった。

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