旦那様に腐女子小説家だとバレてはいけない!



 本を嬉々として読むアメリアの様子を見ていたリリーは、不思議に思っていた。ここにきてまだ数ヶ月のアメリアはどちらかと言えば消極的で、あまり動くような人ではなかった。なのに新聞を読みたいと言い出したり、ウィリアムに本を注文して欲しいとお願いをしたりと、ここ数ヶ月見てきたアメリアの様子とは全く違う。
 しかも、女性が新聞や本を読んでいる。平民出身であるリリーからすればその姿は異常にも思えた。
 平民は文字を読める人も少ない。幸い、リリーは十代前半からウォーカー家で侍女として働いていたおかげで文字を読むことはできる。とはいえ、新聞や本を読みたいとは思わず、仕事に関連する文章を読むのが精一杯だった。勉強をしたいという気持ちはあっても、自分の人生においてそこまで役に立たないことを知っているかのように勉強の意欲はそこまで湧かない。
 だから、自分が仕えているアメリアが新聞を読み、小説を楽しそうに読んでいる姿は不思議そのものだった。

(うなされていたあの日から奥様の様子が変わったような気がするけど……気のせいかしら)

 人が急に変わることは、そんなに珍しくはない。何かの心境の変化があれば徐々に変わっていくものだ。
 リリーはあまり気にしないまま、お茶の用意を始めた。


 … … … … … … …



(……面白かった)

 リリーがお茶を淹れ、それが一杯なくなる頃には一冊の本を読み終えてしまっていた。久しぶりに読んだとはいえ、読むスピードは変わらず早いままだった。
 満足感を覚えながら余韻に浸る。展開が面白く、読んでいる自分が物語の主人公になるような感覚に浸れる内容で、思わずドキドキしながら読み進めていた。
 早く次のを読みたいと思い、積み上げられた本を見たが……あまりにもこれでは、本がかわいそうだった。
 旦那様がこんなに買ってくれるとは思わなかったから本棚なんて用意していない。箱から取り出され、積み上げられただけでは本も傷んでしまう。
 何度も旦那様にお願いをするのは申し訳ないけど、本棚の注文もするべきかしら。それとも、一旦書斎の本棚に入れてもらうべき? でもそれでは、私が読みたい時に大変になってしまう……。
 どうしたものか、と思い悩んでいれば夕食の時間が近づいているらしい。夕食のことを考えれば本を読み続けているわけにはいかない。

(……それにしても、なんで食事を共にしなければならないのかしら)

 お昼は旦那様にも仕事があるから別々だが、朝と夜の食事は一緒に食べることになっている。夫婦としての体裁を守るためだとか言っていたけど、食事を共にしてもあまり話すことすらしないのだからあまり意味がないようにも思える。
 だから正直、旦那様と食事をするのは気が重いし、気まずい。

(でも、そんなこと言っていられないわよね)

 私たちは政略結婚だ。
 しかも、私は援助をしてもらっている側。夫婦としての体裁が云々と言っている食事に対して、共にしたくないと言うのはまた違う話だろう。
 私はため息を一つこぼしながら、食事をするために食堂へと足を運んだ。
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