君は君のままでいい
だいきらい。な君へ

だいきらい。な君へ1


 これは私が物心つく前の一番古い記憶。


 桜舞公園という、市内の大きな公園に母と遊びに行ったときのことだ。


 私は夢中になって、シロツメグサを集めているうちに母と逸れてしまった。


 幼い私は泣くことしかできなくて。


 今、思うとあの頃から私は泣き虫だ。


 そんなとき、迷子の私に声をかけて助けてくれた女性がいた。


 幼い私の記憶では、その女性はモデルのように背が高く、色白で容姿も芸能人かと思うほど可愛かった。


 女性はギターを弾いて泣いてる私に歌を歌ってくれたのだが、それがなんの曲だったのかは、さすがに覚えていない。


 その女性の優しい笑顔や声をぼんやりと覚えているだけだ。


 たしか、女性は言っていた。保育園の先生になると。


 だから私の将来の夢は、幼い頃から保育園の先生なのだ。


 あの女性のように、あたたかい心で誰かを助けて感謝されるような人になりたい。


 あの女性は、可愛くて、優しくて、私の理想であり完璧な人だ。


 しかし理想と現実は残酷なほど遠い。


 まだ明け方だというのに今日も目が覚めた。


 最近ストレスで不眠になっている。眠れた気がしない。


 それなのに、そんな私のことはお構いなしに図々しく朝日が窓から差し込む。


 カーテンを閉め忘れた昨日の自分に失望する。


 あぁ、ベッドから起き上がらなければならないじゃないか。


 仕方なく、ベッドから起き上がりカーテンを閉めようとすると、窓から外の景色が見えた。


 薄暗い街が、徐々に明るくなっていく。 


 東の空は、下側の雲が桃色に、上側の空は藍白になって広がっている。


 しばらく見ていると、雲も空も街も桃色に染めて、全てを照らすように朝日が昇った。


 私はマンションの五階から毎朝この景色を見ている。


 この朝日を見るたびに思うことがある。


 なぜ、親は私に朝陽などという名前をつけたのだろう。


 皮肉にしか思えない。なにをやってもだめな私が、なにを照らせるというのだ。


 だから、私は朝陽という自分の名前が大きらいだ。


 そして窓から見える、この朝日を綺麗だと思ったことは、今まで一度もない。
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