君は君のままでいい

まもりたい。君を2


 教室に戻った月は、すぐに私の異変に気づいた。


 「朝陽。なんでお前泣いてんの?なんかあったんか?」


 急に顔を覗きこまれて恥ずかしくなってしまう。たいして可愛くもないのに、泣いてぐちゃぐちゃになってさらに不細工になっているに決まっている。こんな顔を月に見られたくない。


 すると横から、「さっきとなりのクラスの男子たちが、月君の机に置きっぱなしになってる進路希望のアンケートを見て、月君が子どもに暴力ふるうだの、窃盗しただの、悪口を言ったの。それを朝陽ちゃんが月君はそんなことしないって怒ってくれたんだよ」と星崎さんが説明した。


 「…。まぁ、俺なんかそう見えるわな…」


 そう言った月はいつもより元気がない気がした。


 「月ーぃ!委員長に感謝しろよぉ。てか、お前保育園の先生になりたいんだ。なんか意外だわ」


 「うっせー達也。やりたいもんねえから書いただけだわ」


 自分の席にどさっと座る月に、「ねえ、月。なんで先生に呼ばれて出ていったの?」と私は訊ねる。


 心の優しい月を信じてる。それでも私は、彼がなにも悪いことなどやっていないという確証が欲しかったのだ。


 疑ってるのかと思われたくないけれど、勝手だけど、私は月の無実を知って安心したかった、ただそれだけなのに月は…。


 「はぁ?いちいち言いたくねえわ」とそっぽを向く。


 「お願い、答えて、駅で知らない人の鞄を持ってたのは本当なの?」


 「なんでお前がそれ知ってんの?お前に関係ねえだろ」


 駅で知らない人の鞄を持ってたという、となりのクラスの男子の話は本当だったんだ。私は胸がぎゅっと苦しくなる。


 月は悪いことをしてないんでしょ、なんで答えてくれないの?彼女でもない私が勝手なことを言ってるのはわかってる。それでも答えてほしかった。


 「お願い、ちゃんと答えて」


 「いやだね」


 「なんで言えないの?」


 「言いたくねえからだわ!お前しつこい」


 「月、お願い答えて」と言ったあと、とうとう私は激しく嗚咽してしまう。


 「げ、なんでお前また泣いてんだよ」


 「答えてくれなきゃいやなの!」


 「お前ふざけんな!最近泣きすぎだろ。わかった。言うよ。言えばいんだろ」


 月はようやく観念したようで、少し恥ずかしそうな顔をして説明を始める。


 「電車の中で、ばあさんが鞄を忘れてったの。だから急いでその鞄を持って電車から降りたんだけど、人が多くてばあさん見失っちまったの。んで、近くの交番に届けたら持ち主が見つかって、今、警察から感謝状もらってきたとこ。笑うなよ」


 私は月の話を聞いて、全身の力がぬけて椅子にへたれこむ。


 「ぎゃはははは!月が、月が、あの月が警察から感謝状って。こんな見た目して。不良なのにっ!授業も気に入らないとサボってるのに!こりゃ傑作だ、面白い」と、達也君が腹を抱えて大爆笑する。


 「達也、てめえ!笑ってんじゃねえっ!」


 「月君って、そういうところあるよね〜。本当は良いやつなんだよねぇ〜」と、星崎さんも一緒に吹き出す。


 「星崎っ、お前まで!あー、もうっ!だから言いたくなかったんだよ。うぜえ」


 他のクラスメイトたちも、私たちのやりとりを見てくすくす笑っている。


 クラスのみんなが、本当は月は優しいんだとわかってくれていて、私は心から嬉しい。


 「最初から素直に言えば良かったのに。月のバカっ」


 「言ったらこうやって笑われるだろうが!ふざけんな!お前のせいだぞ!泣き虫、朝陽!」


 いつの間にか、月が私の机に置いといてくれたポケットティッシュで、私は涙をふいた。ありがとう、月。
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