君は君のままでいい
だいすき。な君へ5
朝焼けのあたたかい光に包まれながら、月と公園のベンチで肩を寄せる。
さっきのキスの感触がまだ唇に残っていて、なんだか夢を見ているかのようだ。
唇が寂しい気がして、彼のぬくもりにもっと触れたくて、またすぐに唇を重ねたいと思ってしまう私がいる。
こんなこといつもの真面目な私なら絶対に思わない。きっと恋の熱で思考回路がとけてしまっているのだ。
私は今、恋が実ったことで傲慢になってしまっている、もう彼を離したくない、彼と片ときも離れたくない、このまま結婚してもいい、むしろそうしたい。などど本気で思ってしまっている。
これが噂に聞く恋に狂うというやつか。身体に電気が走ったような、この喜びを知ってしまったら誰でもそうなると、甘い恋の衝撃を実体験した私は自分に言い聞かす。
月も同じふうに思ってくれているといいな。そういえば月は一目惚れだと言っていた。いつからだろう訊いてみよう。
「一目惚れって言ってくれたよね。それっていつから?」
「同じクラスになったいちばん最初から」と、照れくさそうに答える月。
私は頭に疑問符が浮かぶ。
「でも私のこときらいって言ってたじゃん。他にも意地悪なこと言ったし」
すると彼は答えづらそうに頭をかく。
「うーん、それは…。昔の俺と重ねちまったのもあるけど、朝陽にいやだったらクラス委員長をやってほしくなくて…、それをうまく言えなくって…、朝陽が空き教室でいつも泣いてることも知ってて、本当は朝陽を慰めたくって…、でも、そんときなんて言っていいかわかんなくって…、ごめん」
「でも空き教室で私が泣いてるとき、だらだらしようと思ったのになんでお前がいんのって言ったよね」
「心配で朝陽のあとを追ってきたなんて言ったら、気持ち悪いって思われるかなって咄嗟に嘘ついちまったのっ!もうやめてくれよ恥ずかしいんだから」
「なにそれ?だったら、もっと言い方あったでしょ」
「うー、次から頑張る。つーか、もうお前のこと絶対に泣かさない。俺はお前をこれからたくさん笑顔にできるように頑張る」
えー、最初のあれが好きな女子にする態度とは思えなくて、私は衝撃を受ける。次に、月はどれだけ愛情表現が不器用なんだろうと腹の底から笑えてくる。
「好きな子にきらいとか悪口言っちゃうなんて、小学生じゃないんだから、あはははは」
我慢できずに私は思いっきり笑った。
「しょうがないだろ、女子となんか小学校以来まともに喋ったことねえんだから。でも、急に朝陽のこと好きになっちまったんだもん。それはきっと朝陽は、俺にはないもんを持っていたからなんだと思う」
それを聞いて。なんだ、月も私と同じだったんだと思った。
ふたりで繋いだ手から月のぬくもりが伝わってくる。私は月の肩に自分の頭をあてて寄りかかる。月の身体は細身のわりにがっしりとしていて硬かった。でも唇は柔らかかったなぁと思い出しながら、パステルカラーの空を眺めた。
幸せに浸る時間は驚くほどあっという間に過ぎてしまい、時間がぎりぎりなことに私が気づいて、ふたりで急いで登校した。
他の学生たちが通る道まで手を繋いでいたが、恋人だとばれてしまうと恥ずかしいので、お互いにその道からはぱっと手を離した。
手を離すと、またすぐに彼のぬくもりほしさに手を繋ぎたくなった。学校で月が女子からちやほやされるのを聞いてしまうと、不安になってしまいそう。どうしよう、嫉妬とかもするのかな。
しかし、その心配は達也君によってすぐにかき消された。
達也君が朝のホームルーム前に、「お前ら俺が帰ったあとも絶対ちゅーしただろぉ」とでかい声で言ったので、私と月が付き合っているという噂は一瞬で学校中に広まった。
月は女子たちからモテているわけだし、彼女がいると伝わったほうが私としては安心できる反面、他の女子たちから悪口など言われやしないかとびくびくとしてしまう。それは私と月がつり合っていないので当然だ。
しかし、噂を聞きつけて真実を聞きにくる野次馬の男子や女子生徒たちに、「そうだ。朝陽は俺の彼女だから悪口言ったら許さねえからな」と月が言ってくれて、なんか守ってくれている気がして嬉しかった。
昼休みには、一緒にお弁当を食べていた星崎さんが「絶対ふたりは付き合うって思ってた」と言ってくれた。
「どうしてそう思ったの?」と私が訊ねると、「だって、お祭りで朝陽ちゃんが逸れちゃったとき、月君の血相かいて心配する顔見れば誰でもわかるよねー」と星崎さんが言うと、一緒にお弁当を食べている他の子たちもうんうんとうなずいた。
「それに月君、最後までお祭り行くのめんどくさいって渋ってたのに、朝陽ちゃんが来るって言ったら大人しくなったんだよ」と、星崎さん。
「そんなん、もう好きって言ってるようなもんじゃん」と、他の子たちも笑う。
「おい!お前ら頼むからもっと静かに喋れ。全部周りに聞こえてんだよ」
私のとなりの席で、購買の焼きそばパンを食べている月が頬を赤く染めながら言った。
それだけで足りるのだろうか、栄養バランスも良くなさそう、そう思った私が「月、私のも食べていいよ」と、自分のお弁当のおかずを彼にあげようとすると「きゃー、素敵っ」と、一緒にお弁当を食べていた女子たちが目を輝かせて歓声をあげる。
「おいおい、見せつけんじゃねーよぉ」
月のとなりでコンビニの大盛り明太子パスタと唐揚げを食べている達也君が笑った。
「お前ら頼むからほっといてくれ」と肩を落とす月は前よりもトゲトゲしていない。うまく言葉で言えないけどやっぱり月は変わったなと思う。なんというか、みんなに柔らかくなった気がする。
さっきのキスの感触がまだ唇に残っていて、なんだか夢を見ているかのようだ。
唇が寂しい気がして、彼のぬくもりにもっと触れたくて、またすぐに唇を重ねたいと思ってしまう私がいる。
こんなこといつもの真面目な私なら絶対に思わない。きっと恋の熱で思考回路がとけてしまっているのだ。
私は今、恋が実ったことで傲慢になってしまっている、もう彼を離したくない、彼と片ときも離れたくない、このまま結婚してもいい、むしろそうしたい。などど本気で思ってしまっている。
これが噂に聞く恋に狂うというやつか。身体に電気が走ったような、この喜びを知ってしまったら誰でもそうなると、甘い恋の衝撃を実体験した私は自分に言い聞かす。
月も同じふうに思ってくれているといいな。そういえば月は一目惚れだと言っていた。いつからだろう訊いてみよう。
「一目惚れって言ってくれたよね。それっていつから?」
「同じクラスになったいちばん最初から」と、照れくさそうに答える月。
私は頭に疑問符が浮かぶ。
「でも私のこときらいって言ってたじゃん。他にも意地悪なこと言ったし」
すると彼は答えづらそうに頭をかく。
「うーん、それは…。昔の俺と重ねちまったのもあるけど、朝陽にいやだったらクラス委員長をやってほしくなくて…、それをうまく言えなくって…、朝陽が空き教室でいつも泣いてることも知ってて、本当は朝陽を慰めたくって…、でも、そんときなんて言っていいかわかんなくって…、ごめん」
「でも空き教室で私が泣いてるとき、だらだらしようと思ったのになんでお前がいんのって言ったよね」
「心配で朝陽のあとを追ってきたなんて言ったら、気持ち悪いって思われるかなって咄嗟に嘘ついちまったのっ!もうやめてくれよ恥ずかしいんだから」
「なにそれ?だったら、もっと言い方あったでしょ」
「うー、次から頑張る。つーか、もうお前のこと絶対に泣かさない。俺はお前をこれからたくさん笑顔にできるように頑張る」
えー、最初のあれが好きな女子にする態度とは思えなくて、私は衝撃を受ける。次に、月はどれだけ愛情表現が不器用なんだろうと腹の底から笑えてくる。
「好きな子にきらいとか悪口言っちゃうなんて、小学生じゃないんだから、あはははは」
我慢できずに私は思いっきり笑った。
「しょうがないだろ、女子となんか小学校以来まともに喋ったことねえんだから。でも、急に朝陽のこと好きになっちまったんだもん。それはきっと朝陽は、俺にはないもんを持っていたからなんだと思う」
それを聞いて。なんだ、月も私と同じだったんだと思った。
ふたりで繋いだ手から月のぬくもりが伝わってくる。私は月の肩に自分の頭をあてて寄りかかる。月の身体は細身のわりにがっしりとしていて硬かった。でも唇は柔らかかったなぁと思い出しながら、パステルカラーの空を眺めた。
幸せに浸る時間は驚くほどあっという間に過ぎてしまい、時間がぎりぎりなことに私が気づいて、ふたりで急いで登校した。
他の学生たちが通る道まで手を繋いでいたが、恋人だとばれてしまうと恥ずかしいので、お互いにその道からはぱっと手を離した。
手を離すと、またすぐに彼のぬくもりほしさに手を繋ぎたくなった。学校で月が女子からちやほやされるのを聞いてしまうと、不安になってしまいそう。どうしよう、嫉妬とかもするのかな。
しかし、その心配は達也君によってすぐにかき消された。
達也君が朝のホームルーム前に、「お前ら俺が帰ったあとも絶対ちゅーしただろぉ」とでかい声で言ったので、私と月が付き合っているという噂は一瞬で学校中に広まった。
月は女子たちからモテているわけだし、彼女がいると伝わったほうが私としては安心できる反面、他の女子たちから悪口など言われやしないかとびくびくとしてしまう。それは私と月がつり合っていないので当然だ。
しかし、噂を聞きつけて真実を聞きにくる野次馬の男子や女子生徒たちに、「そうだ。朝陽は俺の彼女だから悪口言ったら許さねえからな」と月が言ってくれて、なんか守ってくれている気がして嬉しかった。
昼休みには、一緒にお弁当を食べていた星崎さんが「絶対ふたりは付き合うって思ってた」と言ってくれた。
「どうしてそう思ったの?」と私が訊ねると、「だって、お祭りで朝陽ちゃんが逸れちゃったとき、月君の血相かいて心配する顔見れば誰でもわかるよねー」と星崎さんが言うと、一緒にお弁当を食べている他の子たちもうんうんとうなずいた。
「それに月君、最後までお祭り行くのめんどくさいって渋ってたのに、朝陽ちゃんが来るって言ったら大人しくなったんだよ」と、星崎さん。
「そんなん、もう好きって言ってるようなもんじゃん」と、他の子たちも笑う。
「おい!お前ら頼むからもっと静かに喋れ。全部周りに聞こえてんだよ」
私のとなりの席で、購買の焼きそばパンを食べている月が頬を赤く染めながら言った。
それだけで足りるのだろうか、栄養バランスも良くなさそう、そう思った私が「月、私のも食べていいよ」と、自分のお弁当のおかずを彼にあげようとすると「きゃー、素敵っ」と、一緒にお弁当を食べていた女子たちが目を輝かせて歓声をあげる。
「おいおい、見せつけんじゃねーよぉ」
月のとなりでコンビニの大盛り明太子パスタと唐揚げを食べている達也君が笑った。
「お前ら頼むからほっといてくれ」と肩を落とす月は前よりもトゲトゲしていない。うまく言葉で言えないけどやっぱり月は変わったなと思う。なんというか、みんなに柔らかくなった気がする。