君は君のままでいい
つたえたい。君へ
つたえたい。君へ1
二年後。
私と月は、悠さんが教えてくれた保育学部のある大学に進学した。名古屋からちょっと離れていて通学は大変だけど、尊敬できる近藤先生というおばあちゃん教授がいる。
年齢を感じさせない関西弁の軽快な口調で、自身の実体験や保育実践から、子ども理解について教えてくれる。
私と月は、その教授の講義と人柄が大好きで、今日も楽しかったね、と話しながら大学を出た。
近藤先生も、悠さんと同じことを言っていた。
『目の前の子どもの素敵を見つける保育と子育て』
近藤先生の講義を聞いていると、悠さんから二年前に言われた、『目の前の、自分や人の良いところに気づける見つけ上手になりなさい』という言葉の意味が少しずつわかっていく気がした。
近藤先生は長い間、現場の保育士に向けても講義を開いているので、晴さんと悠さんもこの講義を聞いていたのかなと、ふと思った。
大学の最寄りの駅から電車に揺られて約一時間。
やっと桜舞駅に到着する。
今日は夕方から月が、悠さん、明彦さんと桜舞公園でスケボーをやるという約束になっているらしい。まっすぐ帰ってもバイトもないし、私は彼のスケボーに付き添いでついて行くことにした。
「今日はどれくらいスケボーやってくの?」
「朝陽、待たせるの悪いし、一時間くらいにしとこっかな」
「私のことなんて気にしなくていいのにー」
「大事な彼女なんだから普通気にするだろ。終わったらどっか飯でも食べに行こうぜ、ラーメンでいい?」
「えー、この前もラーメンだったじゃん。今日はちがうのがいい、もっとおしゃれなカフェとかがいいな、公園内に新しくできたカフェあるじゃん」
などと、月とたわいない夜ご飯の会話をしていると、「月、先輩ですよね」と種千高校の学生服を着た男子生徒三人組に声をかけられた。三人とも手にはスケボーを持っている。
月は高校三年生のときに、T市で開催されたスケボー大会で優勝をした。それから不良ではなく、スケーターとして校内でちょっとした有名人になり、月に憧れてスケボーを始めた男子生徒が増えたのだ。
「綺麗な彼女さんとデート中すみません、良かったら俺たちにスケボー教えてください」
そう言って男子生徒たちが頭を下げた。単純だけど綺麗な彼女と褒められて私は内心舞い上がってしまう、高校を卒業してからメイクや服や髪型などおしゃれを頑張って垢抜けた甲斐がある。
しかし、月は「は?なんで俺がお前らに教えなきゃなんねんだ」と素っ気なく受け答えする。
このとき、私はぴんときた。もう二年も彼の彼女をしているので、大体何を考えているかわかるのだ。
こういうときの月は、本気でいやがって相手を否定しているのではなく、突然のことで照れてしまっているだけなのだ。
それでも初対面でこんな態度をとられたら、私だったらもう話しかけようとは思わない。相変わらず不器用なやつ。
月は、私を好きになってくれたおかげで今も良いほうに変わっていっている。それはこれからも同じで、私だってもう月に守られているだけではない、彼と一緒に成長していきたいと思っている。
「つーくん、後輩にちゃんと優しくしてあげて!恐い顔や冷たい言い方もしちゃだめ!」
私がふくれてそう言うと、月が少し困った顔をしてから男子生徒たちを見て言った。
「今から俺にスケボー教えてくれた人たちとやるから、お前らも良かったらついて来い。そこで教えてやる。あと公園に絶対ごみ捨てるんじゃねえぞ。スケーターだったら来たときより美しくしろ。スケボーやれるスポットを大事にしろ、わかったか」
「はいっ」と、男子生徒たちが嬉しそうに返事をした。
私が、えらいえらいと、月の頭を撫でると、「朝陽、本当に恥ずかしいからみんなの前ではやめてほしい」と月が小声で頬を染めながら呟く。
「あははは、月も朝陽ちゃんには形無しだなっ」
ちょうどそこを通った悠さんに現場を見られてからからと笑われた。
「惚れた弱みを握られたっす」
しょぼんとする月の肩を、「それでいいそれでいい、そのほうがうまくいく」と笑って悠さんがぽんぽんと叩いた。
私と月は、悠さんが教えてくれた保育学部のある大学に進学した。名古屋からちょっと離れていて通学は大変だけど、尊敬できる近藤先生というおばあちゃん教授がいる。
年齢を感じさせない関西弁の軽快な口調で、自身の実体験や保育実践から、子ども理解について教えてくれる。
私と月は、その教授の講義と人柄が大好きで、今日も楽しかったね、と話しながら大学を出た。
近藤先生も、悠さんと同じことを言っていた。
『目の前の子どもの素敵を見つける保育と子育て』
近藤先生の講義を聞いていると、悠さんから二年前に言われた、『目の前の、自分や人の良いところに気づける見つけ上手になりなさい』という言葉の意味が少しずつわかっていく気がした。
近藤先生は長い間、現場の保育士に向けても講義を開いているので、晴さんと悠さんもこの講義を聞いていたのかなと、ふと思った。
大学の最寄りの駅から電車に揺られて約一時間。
やっと桜舞駅に到着する。
今日は夕方から月が、悠さん、明彦さんと桜舞公園でスケボーをやるという約束になっているらしい。まっすぐ帰ってもバイトもないし、私は彼のスケボーに付き添いでついて行くことにした。
「今日はどれくらいスケボーやってくの?」
「朝陽、待たせるの悪いし、一時間くらいにしとこっかな」
「私のことなんて気にしなくていいのにー」
「大事な彼女なんだから普通気にするだろ。終わったらどっか飯でも食べに行こうぜ、ラーメンでいい?」
「えー、この前もラーメンだったじゃん。今日はちがうのがいい、もっとおしゃれなカフェとかがいいな、公園内に新しくできたカフェあるじゃん」
などと、月とたわいない夜ご飯の会話をしていると、「月、先輩ですよね」と種千高校の学生服を着た男子生徒三人組に声をかけられた。三人とも手にはスケボーを持っている。
月は高校三年生のときに、T市で開催されたスケボー大会で優勝をした。それから不良ではなく、スケーターとして校内でちょっとした有名人になり、月に憧れてスケボーを始めた男子生徒が増えたのだ。
「綺麗な彼女さんとデート中すみません、良かったら俺たちにスケボー教えてください」
そう言って男子生徒たちが頭を下げた。単純だけど綺麗な彼女と褒められて私は内心舞い上がってしまう、高校を卒業してからメイクや服や髪型などおしゃれを頑張って垢抜けた甲斐がある。
しかし、月は「は?なんで俺がお前らに教えなきゃなんねんだ」と素っ気なく受け答えする。
このとき、私はぴんときた。もう二年も彼の彼女をしているので、大体何を考えているかわかるのだ。
こういうときの月は、本気でいやがって相手を否定しているのではなく、突然のことで照れてしまっているだけなのだ。
それでも初対面でこんな態度をとられたら、私だったらもう話しかけようとは思わない。相変わらず不器用なやつ。
月は、私を好きになってくれたおかげで今も良いほうに変わっていっている。それはこれからも同じで、私だってもう月に守られているだけではない、彼と一緒に成長していきたいと思っている。
「つーくん、後輩にちゃんと優しくしてあげて!恐い顔や冷たい言い方もしちゃだめ!」
私がふくれてそう言うと、月が少し困った顔をしてから男子生徒たちを見て言った。
「今から俺にスケボー教えてくれた人たちとやるから、お前らも良かったらついて来い。そこで教えてやる。あと公園に絶対ごみ捨てるんじゃねえぞ。スケーターだったら来たときより美しくしろ。スケボーやれるスポットを大事にしろ、わかったか」
「はいっ」と、男子生徒たちが嬉しそうに返事をした。
私が、えらいえらいと、月の頭を撫でると、「朝陽、本当に恥ずかしいからみんなの前ではやめてほしい」と月が小声で頬を染めながら呟く。
「あははは、月も朝陽ちゃんには形無しだなっ」
ちょうどそこを通った悠さんに現場を見られてからからと笑われた。
「惚れた弱みを握られたっす」
しょぼんとする月の肩を、「それでいいそれでいい、そのほうがうまくいく」と笑って悠さんがぽんぽんと叩いた。