あの放課後、先生と初恋。




たまにマンションの入り口で何回か顔を合わせるが、隣には賑やかなお母さんもいて、「帰りにちょうど鉢合わせた」なんて言っていた。


部活終わりの娘と一緒に帰れて誇らしげな母親の笑顔が、胸を痛くもさせる。



「………あいつ、」



堤防に座って、海を眺めている制服姿。

スマートフォンを気にしては時間を確認して、まだ早いと判断したのか海に目を戻す。


そうだよな、こんな暗いんだから楽譜だって読めたもんじゃないだろ。



「……公園…?」



ふいに立ち上がった皆木が次に向かった場所は、海からもそう遠くない公園だった。


ポツンポツンとある遊具のなかでブランコを選ぶと、少女はそこに座る。

そこでもまた何回か時間を確認しては閉じての繰り返しだった。



「あーあ…、遥人くんにもウソついちゃってるわたし……」



キーコー、キーコー。
切ない音が、夜の公園に消えた。

遥人くんって……、おまえ俺のことそう呼んでんのかよ。



「……もう、ほんと情けないなあ」



情けなくなんかないだろ。

皆木、そういう見栄は俺も学生時代に張ったよ。


高校のサッカーでレギュラーに選ばれたもののベンチ要員だったとき、俺も家族にはスタメンだと嘘を言ったんだ。



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