あの放課後、先生と初恋。
でも、おまえの場合は違うよな。
………ちげーんだよな。
「あっ!先生!!先生もいま帰りなの?」
マンション前にある自販機。
缶コーヒーを購入して飲み終わりそうだったとき、俺の名前をつけた楽器を背負った女子生徒は笑顔を向けてくる。
「お疲れ。…こんな遅くまで大変だな」
「うん!でも楽しいよっ。先生もお疲れさま」
楽しいわけねーだろ、馬鹿。
どうしてそんなに笑ってられるんだって、腹が立ってきそうでもある。
「今日はどうだった。怒られたか」
「…相変わらず!でもまた吹けるようにもなったし、褒められることも増えたんだ~」
苦しいだろうな、それは。
母親に嘘を言って、俺にも嘘を言って、なにもなかったことをまるであったことのように話すってのは。
でもおまえは、それをずっと続けてしまうんだろう。
「お母さんもう帰ってきてるかな?…あっ、帰ってきてる!」
駐車場ではなく、窓の明かりを覗いて確認。
母親が先に帰宅していることにどこかホッとしているようだった。