あの放課後、先生と初恋。
「……そう、だよね…」
坂田さんの落ちた視線。
けれどもわたしから感じた空気を味わってから、疑問よりも安心が広がっていた。
ニッと笑ったわたしは、最初から怒ってなんかないから。
「言われちゃうことは仕方ないよ。だってわたし初心者だし、下手っぴだもん」
「…そんなことない。みんな、私だって最初は初心者だよ」
とたんに音楽室の雰囲気は柔らかいものに変わる。
みんな何事もなかったかのように手入れをしたり少し駄弁ったりと、帰る準備を再開させた。
「へへ。だからねっ、名前で呼んでくれないと許さない!」
「………にいな、ちゃん」
「“ちゃん”とかいるぅ~?」
「…にいな」
「うんっ!心菜(ここな)っ」
坂田 心菜(さかた ここな)ちゃん。
差し出した手に交わされた握手、友達フォルダに追加された新しい名前。
そして音楽室を出たわたしが真っ先に向かった場所はサッカー場だ。
到着する前に本人が歩いてきて、いっきに駆け寄る。