あの放課後、先生と初恋。




ステージに上がることができる55人というなかで、5人がトロンボーンに振り当てられる。

3年生がいなくなった今、1年生と2年生が奪い合う座席。


ただ来月行われる定期演奏会は、とくに公式の大会ではない地域の伝統を繋ぐ祭典のようなもののため、わたしにもチャンスはあると心菜は言う。


そんな心菜は予想どおり次の部長候補に上がっていて、彼女も前より凛々しくなった。



「でも……わたし、和久井先生に嫌われてるし…」


「…ああ……」



和久井先生、素っ気なかったな…。

このメンバーで金賞を取ると断言しておいて、銀賞だった生徒たちにかけた言葉は。


『そうだと思いました』だった。



「ねえ心菜。心菜は和久井先生のこと、いい先生だって思う……?」



ヒミツを知ってしまっているわたしは、あれから彼女を敬うことはできなくなった。

だって和久井先生は人としても母親としても教師としても、ぜったいにしてはいけないことをしているのだから。



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