あの放課後、先生と初恋。




彼女の涙を慣れた手つきで拭う彼氏に、わたしはふと重ねてみる。

こんなふうにわたしも先生にしてもらえたらどんなに幸せなんだろう。



「先生にも観てもらいたかったなあ…」



興奮がいまだに冷めないわたしだったけれど、夕暮れ空の下、自分の影を見つめてしまう帰り道。

もちろんこんな日に限って仕事になってしまったと嘆いていたお母さんにも。



「とりあえずお祝いだっ!!ん~、どれにしよっかなあ…」



いつもの自動販売機で迷う。

ホットコーヒーを選びたい気持ちはあるんだけど、ほら今日っていつもより暖かかったから。


今日はコーヒーの気分じゃないかな、うんうん。



「どれがいい?」


「わっ、あっ、先生!」


「定期演奏会のお祝い。好きなの選べよ」


「いいの!?」



ブラックコーヒー……の、上にあるメロンソーダ。

軽く笑われた気がするけれど、わっはっはと誤魔化してぐびっと飲む。



「演奏、…よかったぞ」


「へっ?先生今日って部活だよね…?」


「…あー、生徒から聞いた」


「ん…?そっか!それじゃあっ、皆木 にいな初ステージを祝って……かんぱーい!!」


「飲む前に言えよ」



わたしの青春は、ここにある。

誰よりもせつなくて甘酸っぱい初恋はここに───。



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