あの放課後、先生と初恋。




「インターハイは逃したけど、いい試合だったと思う」


「……うん。…惜しかった、ね」


「……………」


「………せんせい、送迎バス、行っちゃったよ」


「…俺は残りの片付けや業務があるから、生徒たちはもうひとりのコーチに任せた」



顔、上げられそうにない。

先生の声がいつも以上に優しいからダメなんだ。

ポタリポタリと、膝の上で握ったこぶしに落ちてゆく。


これはサッカー部が優勝を逃した涙じゃない。


きっと分かってるんだろうな…。

わかってるから、なにも聞かないままわたしを見下ろしてくるんだ。



「……あめ、すごいね」


「…だな」


「っ、……ぅ……、っ、…うぅっ」



今まで泣きはしなかったのに、ここで泣くだなんてずいぶん弱くなったものだ。

考えてみればもっとひどい扱い受けてたんだよ、わたし。


合宿では堂々と馬鹿にされるし、部員たちの前で練習に来るなと公開処刑みたいなことまでされたよね。


泣く場面なんか、今までのほうがたくさんあったというのに。



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