あの放課後、先生と初恋。




「去年からいつも聞いてたよ、おまえの音。ずば抜けて下手くそなんだ。けど……俺は気に入ってる」


「………すき?」


「……………」


「わたしの音っ、……すき…?」



好きだ、と。

もうそれでいいと自分を褒めてあげようとしたわたしに、こんなズルい追い討ち。



「────……にいな」


「っ…!」



わたしの後頭部、わずかな優しさで撫でられる。


涙を隠してくれているのか、泣き止ませようとしてくれているのか。

どちらにせよ間違いだらけのコミュニケーションだ。



「……はると、くん」



そんなふうに応えると、離れてしまいそうだったぬくもりが戻ってくる。


時間なんか止まっちゃえ。

法律なんか、なくなっちゃえ。


この幸せを法律が消し去るというなら、わたしは平気で罪を犯したい。



「遥人くん…っ、………すき」



なにかを我慢するような甘い吐息が、首筋に触れる。

こんなにもあつい12月は初めてだ。



< 186 / 323 >

この作品をシェア

pagetop