あの放課後、先生と初恋。




『にいな先輩はすごいです。周りがどう言おうと、俺は先輩の演奏に勇気を与えられました』



───と、嘘偽りなく言ってくれたのが然くんだった。



「おい、然。ケガしてたって、こっちでやれることはあるぞ」


「……今は少し、心に栄養を与えたいんです。キャプテンにもそう言われました」



然くんは今も、自分のせいで先輩たちの最後のチャンスを潰してしまったと思っている。

そうじゃないよってわたしが言うと、彼はすごく泣きそうにいつも微笑むのだ。



「…わかった」



先生もそれ以上は口出しをしないで、1年生のエースストライカーを見守ることを選んだ。



「ってことで頼むわ、皆木」


「はい!おいでおいでっ。うちの顧問はそういうの気にしない先生だから大丈夫!」


「やった、ありがとうございます…!」



むしろ綾部先生はこう言うと思う。

きみたちのザコい演奏でも聴いてくれようとしてる物好きがいるんだから、せめて彼の心にだけは届けたまえ───って。



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