あの放課後、先生と初恋。
「きみたちのザコすぎる演奏をわざわざ聴きにきてくれた物好きもいるんだから、僕に恥をかかせないでくれよ」
……………ほらねえ。
ちょっと惜しかったけど、大体は同じだ。
吹奏楽部の練習風景を端で見学する然くんを、女の子たちはチラチラと気にしていた。
サッカー部の子だよね?
怪我しちゃった子じゃない?
すると綾部先生、指揮棒で楽譜をパシパシ叩く。
「おいそこの小娘、たかが顔のいい男が来たくらいで発情してどうする」
「そっ、そんなのしてません……!!」
「では、マーチのアタマから。君たちのチカラを僕に見せてくれ」
発情はさすがに先生が言うセリフじゃないって……。
アッチ気質があるとかも平気で言うし、ここが思春期の溜まり場ってことを彼は理解していないんだ。
あの先生、たまに様子を見に来る教頭先生からも必ず言われてるもん。
言葉の教育というものもしてくれ、と。
けれども顔を真っ赤にさせた女の子は、今まで以上の音でオーボエを鳴らせてみせた。