あの放課後、先生と初恋。
「おいおいおいおい、止まれ止まれ。音と感情は直結だと言っただろう。きみたちは僕に不満でもあるのか?だったら聞こう。
………ないのか。とりあえず皆木、もう1回Bメロの出だし」
「は、はい!」
楽譜をペラペラと戻して、いざ。
わたしが吹けば吹くほど、綾部先生は自分のこめかみをトントンと叩いては最終的に立ちながらの貧乏ゆすりに変わった。
「春のコンクールに向けて選んだ曲はマーチだぞ、行進曲なんだ。ひとつひとつが活きなければ僕たちのステージに意味はないだろ」
「はい!」
「きみの肺活量はなんだと僕は言った?」
「切り札です!」
「なぜ僕は切り札を出しているというのに、ここまで不安な気持ちで見守らなくてはならない?こんなショボくれた音が切り札だなんて、僕のカードたちに謝れよ」
「ごめんなさい!!」
「もっと遊ぶんだよ自分の音で!!!…んじゃあ次はチューバの与野だ。きみは───」