あの放課後、先生と初恋。




「…一体感、なかったです。すみません……」


「他は?」


「みんながそれぞれを走ってる感じっていうか、いっぱいいっぱいなんだろうなって……いい意味の余裕が感じられなくて…」



すみません、と。

感想のあとに謝罪で追いかける。



「ベンチの皆木にここまで言わせたんだぞ。どうだおまえら、悔しいだろ」



そんな挑発をしたいがためにわたしに言わせたかのような口振りに、なんて顧問なのかと。



「僕の指揮が震えた瞬間は、確かにあった」



部員たちが一斉に顔を上げる。

その言葉は綾部先生なりの褒め言葉として受け取っても間違いではない気もした。



「ただその震えた僕の指揮以上の実力を、きみたちは響かせてはくれなかった。そこで満足してるようじゃあ、まだまだなんだよ。
…そこが周りと差をつけられた弱い部分だろうな」



去年のコンクール。

銀賞を取った先輩たちに送った、かつての顧問の言葉をわたしはぼんやりと思い返していた。


ここまでの説明もなく、彼女は生徒たちに冷たく背中を向けたのだ。



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