あの放課後、先生と初恋。
奇跡の1枚
わたしはこの町が好きだ。
海しか取り柄がないと思われる田舎町でもあるけれど、じつはそんなことない。
昔ながらの駄菓子屋だったり老舗旅館だったり、歩くぶんたくさんの名所スポットがあるのだ。
そんなわたしの休日の日課は、早朝、海が眺められる堤防にハルトを持って自転車で向かうこと。
学校ではまだ吹かせてはもらえないトロンボーン、とりあえずは音を出してみる。
「よしっ、今日はこのあたりにしよっと!」
トロンボーンは指で押さえる音孔(おんこう)がないため、スライドのポジションでいくつもの音を出す難しい楽器だ。
音の出し分け方は、主に息の出し方。
そこを使い分けることで同じポジションだとしても何種類もの音階を出すことができる。
だからこそ日々特訓しているアンブシュアがとても大切になってくるんだけど……。
「………カモめ…、見事に飛んでいきやがった…」
水面を気持ち良さそうに泳いでいた鳥たちが、一斉にバサバサと。
きっとわたしの演奏に良い意味で驚いたんだね。
うん、そういうことにしておこう。