あの放課後、先生と初恋。

託した気持ち





「皆木、ちゃんと周りの音を聞け。合わせて奏でるものが合奏だ、合わせられないなら話にならないんだよ」


「…はい」


「名波(ななみ)、ちょっと吹いてみろ」


「はーい」



わたしの隣で奏でられた、伸びやかな低音。

そこまでのアルトを的確に出すことは至難の技だと言えるはずが、新入生である1年の名波 玲音(ななみ れお)はやってのけてしまうのだ。


綾部先生も悔しそうにしていることから、彼の実力を認めてもいることが伺える。



「学べ、皆木。トロンボーンはいちばん人間の声に近い楽器だ。名波の音は曲ではなく、歌にも聞こえる」



同じパートで新しくできた後輩は男の子だった。

名波くんは中学からの経験者だし、鈴高にだってきっと推薦なんだろうな…。



「え?俺ですか?家が近かったからですけど」


「……え、それだけ?」


「はい。他に何があるんですか?」


「だって、吹奏楽……」


「これは趣味の一環です。去年まではバリサクやってたんすけど、重いし飽きちゃって」



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